校正の仕事内容3:表記統一

リモートワークや在宅勤務という働き方が徐々に広まってきて、自宅で仕事をする快適さに気づいている人も多いと思います。
それに、ひと昔前だと副業禁止の企業が一般的でしたが、近年はそうでもない会社が増えているような。
この記事を読んでいる人の中には、副業で校正を始めてみようという方もいるかもしれません。

校正の具体的な仕事内容について、記事1では全体の作業の流れを、
記事2では組版ルールの中でも実際によく指摘が入るものを紹介しました。

今回は、表記統一について書いていきたいと思います。

 

文中の表現

ですます体vsである体

校正では、読みながら明らかな誤字脱字にチェックを入れると同時に、表記揺れもチェックしていきます。たとえば、文末表現が「〜です。」の箇所と「〜だ。」の箇所が一冊の書籍の中で混在していればそれをチェックします。
該当箇所に印をつけながらどちらが多いか大体の感じを掴み、表記が揺れていることを報告するとともに、どちらに統一するかを質問します。

ですます体vsである体以外にも揺れやすい表記はあります。
全体に関わる表記揺れ(広範囲にわたって存在するもの)は確認が大変なため、早い段階で指摘を入れたいところです。
「一つ」など(数詞)を漢数字にするか算用数字にするか、
「km/h」など(単位)を全角にするか半角にするか、1字のものがあればそれを使用するか、
書籍名や作品名の「」(カギカッコ)を「」(一重カギ)にするか『』(二重カギ)にするか、などです。
他にも単語レベルで表記揺れしやすいものがありますから、意識しながら読むといいかもしれません。
言う⇄いわれる
時⇄とき
事⇄こと
私⇄筆者⇄著者 といった呼称  など

固有名詞などは長い場合があるので、初出のみ正式な表記にすることが多いです。「全国共済農業協同組合連合会(以下、JA共済連)」のような感じです。

ハイフンとダーシ

とても揺れやすいものとして、ハイフンやダーシがあります。ちなみにダーシとはダッシュのことです。
たとえば、以下の3つは見た目が似ているけれど、違う記号です。
」(enダーシ半角ダーシ):「AからB」や「AとB」の意味。例:AM10–PM10
」(ハイフン):「A-B」で一つのものを表すときに使用。例:Na,K-ポンプ ←これで一つの言葉
」(マイナス):計算式に使用。
マイナス記号は、本来なら半角ダーシが入る部分に入れられていることがよくあります。棒の長さと前後の空きがちょうどよくなることが多いためでしょうけれど、役割としては違うものが入っていることになります。最初は見分けるのが難しいかもしれません。
読んでいて記号が混在しているのはわかるけれど、どれがどの記号かまではわからない……というときには、「揺れています」「ご確認ください」などの申し送りを鉛筆で書き込んでおけばよいのではと思います。

また、ダーシには全角のものもあります。これも似て非なるものがあります。
」(emダーシ、全角ダーシ)
」(ホリゾンタルバー)
どちらも用途は同じですが、下図のように棒の高さが微妙に異なるため、混在していれば統一します。
(左が全角ダーシ、右がホリゾンタルバー)


サブタイトルの前後に入れたり、小説のセリフなどで沈黙を表現するときに入れたりしますが、日本語組版では2文字分を重ねて「——」(2倍ダーシ)とするのが通例です。全角ダーシを使うかホリゾンタルバーを使うかは書籍や出版社によって方針が異なりますが、書籍内で統一されていればよいという見方もあります。ちなみに私自身は「ダーシだから、ホリゾンタルバーではなく全角ダーシの方を使うのが正統」のような話を過去の所属先で聞いたことがありますが、そうでない書物も実際にはいろいろ見かけます。

 

異体字と正体字

読む原稿(校正紙)のジャンルによってはほぼ出てきません。
しかし、たまに繰り返し出てくる人名医学用語に異体字が紛れ込んでいる場合があるため、異体字を持つ漢字が出てきたら注意して、揺れていないか確認します。
人名などでよく用いられる異体字の代表例は次のとおり。

医学用語の異体字はたくさんありますが、代表的なものは次のとおり。

異体字の検索には東京文化財研究所の異体字リストが役立ちます。

表記統一の基準は?

表記揺れには色々な項目とバリエーションがあります。
そこで、揺れている表記の統一方針は誰がどのように決めるのか。
クライアントから表記統一リストのような一定の指針が示される場合も多いですが、リストに載っていない項目については質問するのが無難です。
また、法令ガイドブックのようなものに準拠してほしいという要望を受けることもあるでしょう。官公庁などが発行する法令やガイドブックはインターネット上で無料で閲覧できることが多いのですが、用語や用字について特定の市販ガイドブックを参照するよう求められた場合は、その本を入手しておく必要があるかもしれません。
ここでは、一般的に表記統一の指針となり得るものについて紹介します。

ハウスルール

出版社新聞社では、表記統一の方針が各社で決まっていることがあります(ハウスルール)。
新聞をよく見てみると、2ケタの数字は算用数字を横に並べているのに対し、3ケタ以上になると全角の算用数字を縦に並べていたりします。漢数字と算用数字の使い分けについてもルールに則って用いられていますが、それが各社で微妙に異なっていたりするのです。

ハウスルールは、仕事を開始する前に表記統一の指針として教えてもらえる場合もあります。
特に知らされない場合もありますから、表記揺れがあったら都度確認するといいと思います。
同一の版元から何度も受注していると傾向がわかるかもしれないし、方針や傾向を追加で教えてもらえるかもしれません。
ちなみに、書籍のジャンルやクライアントによっては必ずしも表記統一に徹底しすぎなくてOKということも
「同じページや近くのページで表記が揺れていたらどちらかに合わせる」くらいの緩やかなルールで校正作業を行うこともあります。

記者ハンドブック

校正の仕事をコンスタントに受注し続けるのであれば1冊持っていて損はしない本です。
新聞をはじめとする公共性の高い刊行物もこの本に依拠して書かれるものが多く、用字・用語の使い方や表記ルールが網羅的に記載されているスタンダードなルールブック。
カタカナ語、不快語、差別用語、外国語の表記など、迷いがちな表記にもページを割いているので、参照する場面は少なくないはず。
仕事の依頼によっては、この本のルールに沿って校正するよう要望があることも。

校正必携

日本エディタースクールが発行している、校正のバイブル的書籍です。赤字の入れ方や仮名づかい、ルビ(読み仮名)の位置の決まりといった約束事が詳細に記されています。脱アマチュア書にしてプロ入門書。
記者ハンドブックと同様、表記統一に迷ったときの根拠として挙げるにふさわしい本です。
表記統一以外にも、日本語組版のルールなどが学べるため、校正者としての知識を身につけるなら一度は熟読をおすすめします。