ワインと魚介のペアリングで生臭みが出る原因は「ワインの鉄分」

2020年3月12日

2012年に発表された研究(以下、本研究)で

ワインとホタテを合わせたときの生臭み・不快な味の原因を探るというものがあり

読んでみると内容が面白かったので、概要を紹介します。

 

本研究論文のタイトルは、

「料理とワインの相性からの製造技術へのアプローチ」(田村隆幸)

そして、本文の冒頭には

「料理とワインがあわない,衝突する」

とはどういう場合なのかを考える

と書かれています。

 

「ワインと魚介を合わせたら、別々に食べるよりまずくなった」

という経験のある人は少なくないと思います。

 

本研究では、

衝突した場合には,生臭み,金属味,金属臭,苦味などが発生する.
その原因は,赤ワイン中のタンニンが魚介と衝突すると考えられてきたが,
実はこれも科学的には解明されていない.
実際には,タンニンをほとんど含まない白ワインでも衝突する場合もある.
たとえば,白ワインがするめやアジと衝突する

としていて、思い当たる経験が私にもあります。

お刺身の盛り合わせにワインとか。。

さっぱり系白ワインを選んでも、なかなかすべてに合うとは言い難かったような。

過去の自分自身に「そりゃそうだ」とツッコミを入れたい。

でもまあここでは、泡とかロゼでよくね?などと言わず、原因と対策を一緒にみていきましょう!

 

以前よく言われていたのは、

「白ワインには魚、赤ワインには肉」でしたけど、

必ずしもそうではないということがポピュラーになってきたこの頃。

赤ワインも白ワインも(もちろんそれ以外も)シーフードに合う可能性は十分あるわけです。

 

では、なぜ合わない場合があるか。

本研究では、赤ワイン・白ワイン・その他のワインに含まれる原因物質の1つとして、

Fe2+(=鉄(Ⅱ)イオン≒鉄分)を挙げています。

 

鉄化合物(≒鉄分)そのものには金属のような臭いはないが、

汗や皮脂などにふくまれる不飽和脂肪酸と触れることで

油脂の酸化を促すのだそう。

 

魚介料理とワインが衝突するときのFe2+の役割は,
魚介に蓄積された過酸化脂質の分解を触媒的に作用することでの関与が示唆された

 

と本研究で述べているように、

微量のFe2+(≒鉄分)が

シーフードに含まれる脂質を分解、すなわち脂質を酸化させるため、

生臭みなどの不快な味わいになってしまうということです。

 

ところで、ワインの中には微量の鉄分が含まれています。

生産地によって量が異なったり、製造の過程で増減したりするようです。

一定量(7〜10mg/l)より多いとリン酸やタンニンと結合して混濁物質を生じ、

さらに多いと不快な金属味がすることもあるとか。

 

混濁が生じるようなレベルの鉄分量になることは、

技術発展のおかげで現在はほとんどないそうです。

(それまでに起きていたのはコンクリートのコーティングが不十分で鉄分が溶出するなどが原因)

 

ただ、市販のワインに含まれる鉄分は、上限6.6mg/lくらい。

混濁が生じないレベルに抑えられています。

しかし、肝心な「ホタテ(の干物)と合わせると生臭いFe2+濃度」は

なんと1mg/lから!

ちなみに赤ワインも白ワインもです(←これもちょっと驚きました)。

 

品質上、ワインの混濁は起こさない

=販売上の品質には問題ないFe2+濃度

であっても、

魚介と合わせるとまずく感じるワインは少なからずある

ということですね。

 

先ほど少しふれましたが、

ワインの鉄分混入には複数の種類があります。

ワインの鉄の由来は主に3つにまとめられる.
第一に,ブドウ果実そのもの由来の鉄である.
第二に,ブドウ果実表面に付着する土埃由来の鉄である.
最後は,醸造装置からの混入である.

 

混入を防ぐ方法として、

ブドウをよく洗う(上記②への対策)・醸造装置からの混入を防ぐ(③への対策)

ということが挙げられるそうです。

 

鉄分流出が起こり得るコンクリートタンクを使わなければいいという話ではでなく

ステンレスタンクであっても、ワインに添加する亜硫酸や濾過助剤によって

鉄分の流出があり得るとのこと。

 

本研究では、

かつてコンクリートタンクが主流だった時代に

混濁物質を取り除く目的で行われていた鉄分除去の技術を、

ペアリングの観点から再度見直し、さらに発展させてみては?

という新たな課題提起で締めくくっています。

 

ちなみに、製造されたワインから鉄分を除去する方法はいろいろあるようですが

日本では

ワインの鉄を除去する方法として
イオン交換樹脂による除去,
フィチン酸による除去
しか認められていない

とのこと。

 

知識の乏しい私には、

どうすれば「魚介にも合うワイン」がより多く生み出されるのか

知る由もありませんが、

本研究の論文を読んでとても勉強になりました!

 

そして、各産地のワインが含む鉄分量の違いに唖然。

やはりテロワールのなせる業というのか、、一国内でもここまで差があるとは。

もちろん土壌や栽培環境だけでなく、

ワイン造りのスタイルなどにも左右されるのでしょうが

この表を見ると、ドイツやギリシャ、アルゼンチンなどで鉄分量が少なく

魚介に合うワインができそうだな〜と勝手に合点。

 

逆に、イタリアの平均含有鉄分量の多さにびっくり。

テイスティングの勉強でお世話になっているサイトで

「イタリアの赤ワインは埃っぽい感じ」

と書かれていた(うろ覚えです……)のが思い出されました。

 

本研究の鉄分混入の由来②と一致するのでは!?

などと想像を膨らませてみたり(さすがに無理がありますが……)。

 

結論として言えるのは、

魚介と合わせるなら鉄分量の少なそうなワインを選ぶ

(ここで知識と経験がものを言うか…… !?)

ということでしょうか。

 

余談として少し思ったのは、

刺身や塩辛をアテにスルスル飲めちゃう日本酒は鉄分が少なそう。

ひいては酒米や日本の軟水の鉄分含有量が関係してるのかも〜。なんて。

(↑調べました。日本ソムリエ協会の教本によると酒米の鉄分含有量は0.02ppm以下を推奨。

1ppmは0.0001%。すなわち0.02ppmは0.02mg/lと非常に低い!!)